vol.116【霊枢】虚実の刺法とは？〜氣の偏りを診て、補い、瀉す〜— 鍼は、氣のバランスを調律する“楽器”である —
- - 鍼仙人 - 高山 昌大
- 3月25日
- 読了時間: 5分
更新日：3月26日
東洋医学における診断の柱のひとつが、「虚実」の判断です。
虚＝足りない氣
実＝滞って余っている氣
この氣の偏りを見極め、適切に“補う”か“瀉す”かを選ぶことが、鍼灸の成否を分けるカギ。
古典『霊枢』では、刺鍼の段階でこの虚実をどう診て、どう処理するかが詳細に語られています。
【1. 虚実とは何か？東洋医学的な氣の視点】
🟡《霊枢・終始篇》：
「氣之盛者、瀉之；氣之虚者、補之。」
つまり――氣が盛んすぎるところは“瀉す”（抜く）氣が足りないところは“補う”（与える）
これは単なる量の話ではなく、
偏り
流れの停滞
氣と血のアンバランス
なども含めた“氣の質”の問題です。
【2. 虚実をどう見極めるか？診断のヒント】
判断軸 | 虚のサイン | 実のサイン |
脈 | 弱く沈む・細い | 強く浮く・滑らかすぎる |
舌 | 淡白・胖大・潤 | 赤く腫れ・苔が厚い |
症状 | 倦怠感・冷え・無力感 | 張り・熱・圧痛・怒り |
触診 | 弾力なし・虚冷 | 張って硬い・熱感あり |
問診 | やる気が出ない・静 | 怒りやすい・興奮・過剰反応 |
☯️ 鍼仙人の診立て：
虚は“氣が届いていない”実は“氣がこもって逃げ場がない”
【3. 補瀉の刺法：古典における操作の違い】
🟡《霊枢・邪客篇》《刺法論》《終始篇》等に記載される刺法の原則：
刺法 | 内容 | 操作のポイント |
補法 | 虚に対して氣を補う | ゆっくり刺して、速く抜く／順刺／閉鍼（孔を塞ぐ） |
瀉法 | 実に対して氣を抜く | 速く刺して、ゆっくり抜く／逆刺／開鍼（孔を開く） |
例えるなら――
補法＝乾いた土地にじっくり水をしみ込ませる
瀉法＝溢れた池から余分な水をそっと逃がす
☯️ 鍼仙人の操作観：
鍼とは、氣のダムの水門を操作する技術。開けるのか？閉じるのか？その“加減”が補瀉の妙。
【4. 補瀉をどう選ぶか？臨床での判断と実践】
状態 | 補法／瀉法 | ツボの選び方 |
慢性疲労・冷え・血虚 | 補法 | 原穴・兪穴・補助穴（太渓、三陰交、関元） |
肩こり・便秘・ストレス | 瀉法 | 合谷、曲池、太衝、風池など“動きのあるツボ” |
虚実錯雑（虚と実の混在） | 両方 | 先に瀉して、後に補う（実を除いてから補気） |
自律神経失調 | 調和 | 補と瀉を交互に使う。百会＋神門＋内関などで整える |
【5. 補瀉の本質＝氣の調和を生むこと】
補瀉の目的は「氣の量を操作すること」ではなく、“氣のバランスを整えること”です。
溜まりすぎた氣を流し
足りない氣を育てる
偏った氣を中央に戻す
そのすべてが、心と体の中庸を取り戻すプロセスなのです。
☯️ 鍼仙人の哲学：
虚実とは、陰陽の乱れである。鍼の一手で氣が整えば、感情も、血流も、姿勢も自然に整う。
🔚まとめ：補瀉は“氣の建築”である
氣の偏りを読み、氣の道を整え、氣の住まいを建て直す――
補瀉とは、まるで“氣の建築家”のような仕事です。
鋭く、柔らかく、繊細に――それが、霊枢が教える“補瀉という技術の本質”です。
📘次回予告：次回は「五臓の刺鍼とは？〜臓腑別に変わる氣の操作〜」をお届けします。肝・心・脾・肺・腎――それぞれの“氣の質”と刺鍼の違いに迫ります。
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『鍼仙人』院長 高山 昌大
施術歴16年／87,000人以上の施術実績。
プロアスリートや著名人の施術経験も豊富。
鍼師・灸師・柔道整復師・機能訓練士・登録販売者・調理師など、多岐にわたる国家資格を保有。鍼灸・柔整・構造医学・東洋医学をはじめとする幅広い知識と手技を融合。
「施術は科学であり、芸術である」を理念に、心身の真の調和を追求。
🟡 典拠（古典より）：
《霊枢・終始篇》：「氣之盛者、瀉之；氣之虚者、補之」
《霊枢・邪客篇》：「補則閉鍼；瀉則開鍼」
《霊枢・本輸篇》：「刺之道、虚則補之、実則瀉之」
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